CHOICE|病児保育事業「みらい結び」上江洲沙彩さんインタビュー

CHOICE|病児保育事業「みらい結び」上江洲沙彩さんインタビュー

「私らしく」活躍しているママたちに会ってみたい!

彼女たちが今に至るまで、どんな選択や決断をしてきたのか。

「CHOICE」は、沖縄で活躍する女性に焦点を当て、ママとして、そして一人の女性として毎日を全力で楽しむための「秘訣」を紹介するインタビューシリーズです。

仕事や家庭、育児など、日々の生活の中で奮闘する女性たちにとって、少しでも前向きに過ごすためのプラスαのヒントをお届けすることを目的としています。

同じ境遇で頑張る皆さんが共感でき、すぐに実践できるようなアイデアやアドバイスを引き出し、ポジティブなエネルギーを広めたいと考えています。

第4回目は、病児保育や救命講習の事業を行っている「みらい結び」代表の上江洲沙彩(うえず さあや)さんにお話を伺いました。

頼れる人がいない子育ての涙が、病児保育起業につながった

「みらい結び」代表 上江洲沙彩さん

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「みらい結び」代表 上江洲沙彩さん

県外での子育て時、子どもの急な発熱に預け先がなく苦労した経験から、「誰もが頼れる存在が必要」と痛感。沖縄に戻ってから、同じ悩みを抱える親たちの声を受け止め、病児保育事業を立ち上げました。さらに保育園向けの実践的な救命講習も展開し、保育現場での安全性向上に貢献しています。

県外での子育て時、子どもの急な発熱に預け先がなく苦労した経験から、「誰もが頼れる存在が必要」と痛感。沖縄に戻ってから、同じ悩みを抱える親たちの声を受け止め、病児保育事業を立ち上げました。さらに保育園向けの実践的な救命講習も展開し、保育現場での安全性向上に貢献しています。

移住先での子育てが原点に

上江洲さんは沖縄で生まれ育ち、最初に就職したのは神奈川県の病院でした。ご主人も看護師で、県外で迎えた初めての子育ては思い描いていたものとは違っていたと振り返ります。

「子どもが病気になっても預け先がなくて、勤務中に泣いてしまったこともありました。近くに親族の支えはなく、夫も仕事を休めない。けれど自分も働きたい。その狭間で追い詰められていました。喘息もちの子どもで体が弱く、月に10日休むことも。頼れる人もいない中で働くのは辛い日々でした」

時短勤務や転職をする選択もありましたが、「看護師としてバリバリ働きたい」という思いが強く、2人目の妊娠を機に子どもと先に沖縄へ帰ることを決めました。

沖縄へ戻り、保育園の看護師として働き始めました。
そこでは「もっと仕事がしたいから、保育園に看護師がいるなら熱でも預けたい」といった働く意欲のあるママの意見が届きました。しかしコロナ禍になり「今日働かないと生活が厳しいんですよね…」という切実な声があり、心に引っかかります。

「座薬を使って子どもの熱を下げ、無理に保育園に預ける人もいました。でも、預け先がなくて泣いちゃっていた私には、その気持ちも痛いほど分かるし…。同じように悩んでいるママたちを前に、私は不甲斐なさを感じました。その思いが起業につながったんです」

 

「今動かなきゃ忘れてしまう」その瞬間の決断

「保護者の悩みを直接聞いていながら、このまま何もせず行動をしないのは違う。私も県外で感じた、頼れる人がいない育児の辛い記憶が鮮明なうちに行動したいと思いました。そうしないと辛い気持ちがどんどん薄れていくんじゃないかなって」

だからこそ、この思いを原動力に変えて動き出したのです。

そんなときに見つけたのが「病児保育100%受け入れます」という本土のサービスでした。「これを沖縄でもやりたい」と強く思い、すぐに行政に相談しました。

「サービスの対象になる人口規模が少ないことから導入は難しい」と言われ、最初から壁にぶつかりましたが、諦めずに、「どうやったら導入できるのか」という目線で何度も話を伺いに行きました。

 

病児保育という取り組み

始めは1人で、小さく事業がスタートしました。
最初の利用者は知人からの紹介で、今でも利用してくれています。

「初めて会うお子さんでしたが、我が子を看病している気持ちでした。その保護者さんとも『まだまだ長い子育て期間、私が一緒に子育てしますよ〜』とよく話しています」

「子どもを見てくれる人手が足りていないんです」と上江洲さんは語ります。

男性の育休や企業の理解も進んできたけれど、それでもまだ足りないのは、いつでも頼れる身内のおじさん・おばさんのような身近な存在だと言います。だからこそ、スタッフにも「親戚のおばさんのように子どもや保護者と関わってほしい」とお願いしているそう。

実際に病児保育を利用した方からは、「預かりが100%確約なので、思い切り仕事に打ち込める」、「親戚がひとり増えたようで心強い」といった声もあったそうです。

 

救命講習の取り組み

みらい結びの大切な事業のひとつとして、保育園施設向けの救命講習があります。

各地域で行われる消防本部での救命講習は、心肺蘇生やAEDの使い方を教えるのに対し、みらい結びの講習は、保育園の日常を完全再現した上での実践型。保育士のお昼休憩中など、実際に起こり得る場面を想定しながら進めます。

救命講習では、「助けを求める声が別室に届かない」「救急通報の際に住所が分からず慌てる」など、やってみて初めて気づく問題が明らかになりました。

これまでに約20施設で講習を実施し、施設ごとに現実的な課題が浮かび上がったそうです。「リアルな状況を想定してやらないと、実際の緊急時に対応できないんですよね」と話します。

講習を受けた施設の保育士からは、「緊張感がある講習だった」「チームが連携する意義を再認識できた」といった感想も届いています。

 

仲間と一緒に育てる組織づくり

現在、病児保育はスタッフ8名、救命講習はスタッフ3名体制のチームで活動。同じ目標を共有しながら、安心して働ける環境づくりに励んでいます。

「人が増えた今が一番大変かもしれません」と語る上江洲さん。その理由は、人によって性格や物事の捉え方が違うからです。大雑把な自分に対し、細かい部分に気を配ってくれる仲間がいることで、新たな調整が必要になりましたと話してくれました。

それでもフラットな組織文化を大切にしており、行き詰まったときは直接メンバーと相談し、一緒に解決の道を探すことを意識しているそうです。

 

仕事への思い

活動を通して感じるのは、どんな環境にいても希望する道を選べる「選択肢」と、困ったときに助けを受け入れる「受援力」が必要だと言います。

病児保育の実施のために行政との連携を模索するなかで、条件付き制度の壁にも直面しました。病児保育を利用するには診断書が必要だったり、預かる施設によっては発熱の上限が決められていたりと、働いている保護者には高いハードルだと感じたそうです。

「お子さんが一番安心できるのは、やっぱり自宅です。いつでも、どんな場面でも自宅で過ごせる病児保育こそが最適だと思ったので、居宅訪問型保育施設(ベビーシッター)登録でのスタイルを選びました。なのでお子さんが病気でなくても利用できます」

【居宅訪問型保育施設とは】
地域型保育事業のうちのひとつである小規模人数での保育サービスです。ベビーシッターや保育士が子どもの自宅を訪問し、1対1のマンツーマンを基本として保育を行います。

そう語る一方で、行政の現場で働いた経験から新しい考えも生まれました。家庭相談員として半年間働き、生活保護世帯を担当した際「本当に困っているのに、どこに頼ればいいのか分からない」という声を数多く耳にしたそうです。さらに、生活保護を受けていなくても「子育ての相談先が分からない」という家庭が多いことにも気づきました。

「今は行政と連携せず保育サービスを提供していますが、将来的には誰もが利用できる仕組みにしたいと思っています。そのためには行政と連携し、利用料を抑える必要があると、ここ最近ずっと考えています」

 

子どもを真ん中に描く、これからの未来

上江洲さんは、ご自身の子育ての中で「不登校」という壁にも向き合ってきました。長男が小学1年生のとき、半年ほど学校へ通えなかったのです。上江洲さん自身も幼いころは学校が好きではなかったため、不登校そのものに否定的な気持ちはありませんでした。

ところが、いざ不登校児の親の立場になると、想像以上にモヤモヤしたと言います。「同世代と関わる機会が減ってしまうのでは」「勉強についていけなくなるのでは」と、不安がよぎりました。「自分ってこんなに悩む性格だったんだ」と気づいたそうです。

この経験を通して、不登校の子どもやその親を支える居場所づくりについても思いを巡らせています。

上江洲さんはこれからの未来について話してくれました。

「“想いを仕組みに”をコンセプトに、みらい結びをメンバーと一緒に育てていきたいです。
フラットな文化を大切にしながら、それぞれの経験や価値観を共有し、事業を広げていく。その先にあるのは、子どもたちへ残したい未来です。私が思う『子育てしやすい環境』とは、選択肢が多いこと。子どもを中心に考えられた社会のために、企業や地域を巻き込みながら子育てできる環境をこれからもつくりたいと思っています」

その想いはやがてみらい結びの活動へとつながっていくでしょう。

INFORMATION

店名:

「みらい結び」訪問型 病児保育|救命講習

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