CHOICE|産後ケア施設「birth」渡口紗都子さんインタビュー

CHOICE|産後ケア施設「birth」渡口紗都子さんインタビュー

「私らしく」活躍しているママたちに会ってみたい!

彼女たちが今に至るまで、どんな選択や決断をしてきたのか。

「CHOICE」は、沖縄で活躍する女性に焦点を当て、ママとして、そして一人の女性として毎日を全力で楽しむための「秘訣」を紹介するインタビューシリーズです。

仕事や家庭、育児など、日々の生活の中で奮闘する女性たちにとって、少しでも前向きに過ごすためのプラスαのヒントをお届けすることを目的としています。

同じ境遇で頑張る皆さんが共感でき、すぐに実践できるようなアイデアやアドバイスを引き出し、ポジティブなエネルギーを広めたいと考えています。

第7回目は、那覇市首里にある産後ケア施設「birth」代表の渡口紗都子さんにお話しを伺いました。

兄との別れを機に“生まれ直した”助産師の想い 「五感を癒す場所 birth は、いつもママのそばに」

渡口紗都子さん

CHOICE

渡口紗都子さん

那覇市首里にたたずむ、五感を癒す産後ケア施設「birth」代表。
3人の子を育てる母。第一子の出産を機に助産師を志す。
産院、那覇市嘱託助産師、産後ケア施設での勤務を経て2025年7月産後ケア施設を開業。
産後うつなどの社会問題を身近に感じ、誰でも利用できる場所を目指し、地域に根差す取り組みを展開中。

那覇市首里にたたずむ、五感を癒す産後ケア施設「birth」代表。
3人の子を育てる母。第一子の出産を機に助産師を志す。
産院、那覇市嘱託助産師、産後ケア施設での勤務を経て2025年7月産後ケア施設を開業。
産後うつなどの社会問題を身近に感じ、誰でも利用できる場所を目指し、地域に根差す取り組みを展開中。

【産後ケア施設とは】

産後1年頃までの母子を対象に、母親の体の回復と心の安定を支え、家族が健やかに育児できるよう助産師が中心となってサポートする事業。

母として、助産師として、産後ケアへの想いが生まれたとき

――まず、助産師を目指したきっかけを教えてください。

私は13歳、10歳、4歳の3人の子どもの母なんですけど、長男を産んだ時はとても大変でした。何度も乳腺炎になっては、助産院にお世話になったんです。

看護師として働いていた私でも知らない知識や、出産しないと分からない問題がたくさんあって、産後心も体もボロボロな私に寄り添ってくれた助産師はなんてすごいんだろう…ってまるで仏のように思えました。

――その経験が助産師を志す原点になったのですね。

助産師になると決め、産後3か月で助産師学校へ出願、産後7か月で沖縄県立看護大学(別科助産専攻)へ入学。授乳をしながらの学業は苦労ばかり。ほとんど寝ずに助産学校での学業や実習。どんなに辛いときでも、あの時の助産師への尊敬と感謝の念が、諦めそうな心を奮い立たせました。

卒業後は総合病院のNICU(新生児集中治療室)や個人の産院で助産師として勤務。約8年間、産院で働き、「もっとママが気軽に相談できて、地域に根差したサポートがしたい」と思うようになりました。

――そんな中で、ご家族に不幸が訪れたと伺いました。

はい。突然、兄の死が訪れました。兄とは何十年も疎遠で、正直、仲のいい兄妹ではありませんでした。でも小さい頃はよく一緒に遊んでくれていました。まさか、久しぶりの再会がこんな形になるなんて思ってもみませんでした。

「ごめんね」も「ありがとう」も伝えられなかった。

言葉にできないたくさんの想いが、波のように押し寄せてきて、心の中は混乱していました。火葬までの時間、兄の顔を見つめながら、これまでのことを何度も思い返していました。

すると少しずつ、心の中の重たい膜が一枚一枚はがれていくように、静かで穏やかな気持ちに変わっていったんです。気づけば、兄への想いや残された家族への気持ちは、後悔ではなく、感謝や愛情に変わっていました。

今振り返ると、兄はすべてを分かっていたのかもしれません。自分の寿命も、私へのメッセージも。「あなたはこの命をどう生きるの?何をしたいの?」そんな問いを投げかけられているような気がしました。

そして、心の中で自然と答えが浮かびました。「兄が、私をもう一度、生き返らせてくれたんだ」と。亡くなってからの方が、兄から教えられたことはたくさんありました。

 

生まれ変わるような決意と「birth」誕生

――令和7年7月7日、那覇市首里にオープンした産後ケア施設「birth(バース)」。開業は、お兄さんの存在が大きかったのですね。

その名前には、生まれる・蘇生するという意味が込められています。兄の死と向き合う中で、私自身が蘇生していったんです。だから、自然と「birth」という名前が浮かびました。

――どのようにスタッフは集まったのですか。

準備をスタートしてからは不思議なくらい自然と仲間が集まりました。助産師をはじめ、看護師、心理士、保育士、栄養士、理学療法士、鍼灸師、睡眠発達コンサルタント、体軸ベビー講師、ヨガ講師、マレー式トリートメントセラピストなど。

多彩な“癒しの技”を持つプロフェッショナルが集まってくれたことは、大きな魅力のひとつです。たくさんのママたちのケアは、一人として同じではありません。一人ひとりに合ったサポートをするには、豊富な経験と知識、そして技術が必要です。

私ひとりでは到底できないこと。もしすべての資格を自分で取ろうとしたら、きっと200年はかかってしまうと思います(笑)。今にも倒れそうなママたちに「あと200年待ってね」なんて言えませんから。

ママと赤ちゃんを支えるためには、専門的な力が必要です。そして何よりも、同じ思いを持った仲間が必要なんです。私は代表という立場ではありますが、上下関係のようなものはありません。同じ志を持って集まってくれた仲間たちは、本当に尊い存在で、家族のように大切に思っています。

結局のところ、仕事も家庭も子育ても、人とのつながりで成り立っています。だからこそ、プロとしての意識を持ちながらも、お互いを思いやり、大切にし合いながら働ける場所でありたいと思っています。そのあたたかいつながりは、きっとママや赤ちゃんにも伝わっていくと信じています。

――開業に向けて、アロマやグリーフケアの学びも始められたそうですね。

ママを癒したいと思ったとき、手で癒しを与えられるアロマを学びたいと思ったんです。そして、兄の死をきっかけに、5か月間の夜間集中講義を受講し、グリーフケアセラピスト(ナチュラルグリーフケア認定セラピスト=死別などの喪失体験を癒す支援)となりました。

日本では文化的に死を語るのがタブーになりがちだけれど、話せる場所は必要です。寄り添うことが必要な方はきっといるので。我慢しないでほしい。頼ってほしいんです。すべて受け止めます。

産後ケアもグリーフケアも区別されない、当たり前の世の中にしたい。

 

一人ひとりのママに寄り添うこだわり

――「birth」の特徴について教えてください。

他の産後ケア施設と大きく違うのは、産後1年まで利用できる点です。多くの施設は生後3〜4か月まで。寝返りやつかまり立ちが始まると、人手の問題で受け入れが難しくなります。でも、生後1年までが本当大変なんですよね。

その思いから、1歳まで利用可能な仕組みを整え、安全な場所であるために、赤ちゃん1人につきスタッフ1人という1対1の体制を徹底しています。他県でおきた助産院での事故をきっかけに安全管理が厳しくなりました。だからこそ、目の行き届く範囲でケアしたいと考えてます。


――利用されたママたちの反応はいかがですか。

来るときは「疲れた〜」って言ってるママが、帰るときには「癒された〜、育児かんばれる」って笑顔で帰っていくんです。ここに来ただけで心が軽くなったって言われると、本当にうれしいです。

個室でぐっすり眠るママ、スタッフに相談するママ、同じ境遇のママ同士でおしゃべりする人。過ごし方はそれぞれでいいんです。ありのままで過ごしてほしい。アロマ施術をしているときに、ママの寝息が聞こえるんですよ。ママもゆっくり眠れてよかったと心の中でガッツポーズしてます。


 

地域とつながるこれからの展望

――自治体との提携について教えてください。

産後ケア事業は、自治体の委託を受けた地域の方しか利用できないため、利用者が限られてしまうんです。現在、八重瀬町のみ提携をしていて、その他の市町村のママが利用するには自費での利用になります。今後は施設を構えている那覇市とも提携して、より多くのママに気軽に利用してもらいたいんです。

――今後の目標や夢はありますか。

痛いし辛いし、もう産みたくないと言うママもいます。でも、ここに来て「こんな場所があるなら、もう一人産んでもいいかも」と言ってくれるママが多いのが嬉しい。

夢は、母子手帳に産後ケアチケットをつけること。産後のママ全員が平等に利用できるようにしたい。今は、安心して出産・育児にのぞめるように、助産師がご家庭を訪問してアドバイスを受けられる助産師訪問の事業があります。これと同じように産後ケアも当たり前に使える事業にしたい。

ママは無理しようと思えば、いくらでも頑張ってしまうものです。

産んで終わりじゃなくて、そのあとも大変なのに。ママは寝れないし、赤ちゃんは泣いているし。家庭環境、兄弟、サポーターがいるかどうか、移住者だったり、みんなそれぞれ痛みは違うので、みんなが平等に利用できる制度にしたい。那覇が変われば、沖縄全体が変わると思うんです。

将来的には、パパや子どものいない方も気軽に来られる講座やイベントも開催していく予定です。ここは産後ケア施設だけど、みんなの居場所でありたい。誰でもウェルカムです。

 

家族を大切にしながら自分らしく働く

――経営者として、母として、どのように日々を過ごされていますか。

病院勤務の頃は、いつも頭の中が仕事でいっぱいだった。お産が大好きだったし、妊婦さんのかわいいお腹に触れるのも好きだった。

しかし、当然のことながら、お産はふたりの命を預かる緊迫の場所。常に気を張っていたんですよね。緊張感も強く感じていました。人間、緊迫状態が続くとイライラしてしまいます。でも、これからも働く自分を想像したときに、健康で、自分自身をまずは大切にしないとって。

なので今は、自分の心と体を大切にする時間も作っています。余白を意識して、あえて何もしない日。子どもたちと、大好きな海に行ってぼーっとする日。好きな場所や安心できる人に会ったり。

自分を整えることで、利用してくれるママたちにも優しくなれるし、子どもにも笑顔で接することができるんです。

 

ママにメッセージ

――最後に、今頑張っているママたちへメッセージをお願いします。

頼ってほしい、それだけです。「他にも大変なママがいるから」って我慢しちゃうママも多いけど、つらさ比べは必要ない。助けて、といつでも言いに来てくださいね。

産後ケア施設「birth」は、ママも蘇生するように˝ 五感を癒す˝ 場所。那覇の地から、ママの笑顔を支える渡口さんの挑戦は、これからも続いていきます。

▼産後ケア施設「birth」クラウドファンディングに挑戦中です。詳しくは下記をご覧ください。

【沖縄】“待ったなし”産後ママのSOSに応える自費産後ケア支援プロジェクト

支援期間:2025年10月31日まで

INFORMATION

店名:

birth---五感を癒す産後ケア施設---

住所:

沖縄県那覇市首里大名町2-66

電話番号:

080-9857-1225

※記事内の情報は記事執筆時点のものです。正確な情報とは異なる可能性がございますので、最新の情報は直接店舗にお問い合わせください。