
南城市 | 南城美術館で出会った“暮らしに寄り添う美”
世界遺産・斎場御嶽の森に抱かれるように佇む「南城美術館」。ママと子どもが一緒に訪れるからこそ感じられる“感性の揺らぎ”が、この場所にはあります。今回は、ママモネ編集部が実際に足を運び、アートが“生活の延長”として存在する美術館の魅力を体験。
ガイドブックではわからない、リアルな視点でレポートをお届けします。
目次
自然の中で、心がゆっくりほどけていく場所
”ただいま”のように迎えてくれる、美術館の入り口
車を降りて歩きはじめると、すぐに聖地・斎場御嶽の森の空気に包まれます。建物の入り口は、美術館というよりも、どこかのご家庭にお邪魔するような感覚。ゆるやかな石畳、木々の影、風に揺れる草花。おしゃれなのに気取っていない、そんな佇まいが印象的でした。
この美術館が少し特別なのは、“暮らしの場”がそのまま展示空間になっていること。
副館長の説明によると、もともとは「西大学院」という教育施設として使われていた場所で、女性が自信と誇りを持って輝いて生きるために、生活の原点となる衣食住の基本を学ぶフィニッシングスクールだったそうです。「美しい教育はお母さんから始まる」という考えのもと、礼儀作法やお茶教室などを通じて“日々の生活こそが芸術である”というスピリットが大切に育まれてきたとのこと。
そんな背景を聞いたあとに見る展示の一つ一つが、どこか“人の暮らし”とつながっているように感じられたのは、その歴史があるからかもしれません。
キッチンやリビング、客間といった空間は、当時の姿を残したまま展示室として生まれ変わっていて、作品と空間がやさしく調和しているように感じました。
“展示室だったんじゃなくて、展示空間になった”という副館長の言葉が、とても印象的で心に残っています。訪れる人がただ作品を見るのではなく、暮らしの中にアートをそっと迎え入れるような、そんな体験ができる場所。
ここから、南城美術館でのやさしい時間が始まります。
風と光と写真が語りかける、屋外アート体験
まず、美術館の入り口を抜けて最初に迎えてくれるのが、芝生が広がる開放的な屋外展示スペース。ここでは、海を望むロケーションの中、布に印刷された写真作品が風に揺れながら並んでいます。これは、写真家・映画監督の蜷川実花さんとクリエイティブチームEiMによる展覧会「光の中で影と踊る」の一部です。
海風にたなびく布と、鮮やかな色彩が織りなすリズム。その光景をただ眺めているだけで、心がじんわりほぐれていくような感覚になります。
自然の中でアートに出会うというこの体験は、五感がふわっと開いていくようで、光、風、音、空気…すべてが作品の一部のように感じられました。
日常の喧騒から離れ、ただ静かに風景と作品に身をゆだねる時間。今晩のご飯のメニューとか、明日の仕事の事とか、何も考えずに心を解放できた貴重なひとときでした。
花と暮らすように、アートが寄り添う時間
屋外展示を堪能したあとは、邸宅の中へ。
南城美術館では、玄関やダイニング、客間など、かつての生活空間そのものを展示スペースとして活用しています。まるで人が住んでいたかのような温もりが感じられる空間に、蜷川実花さんの花の写真作品がしっとりと溶け込み、その空間ごとに“ふさわしい花”が静かに咲いていました。
美術館というより「誰かの美しく整ったおうちに遊びに来た」感覚。ソファのあるリビング、畳のある和室、廊下に置かれた写真…。日常の中にある“余白”にアートがそっと佇んでいて、こちらが構えることなく受け入れられるような安心感がありました。
私自身も、花の写真を眺めながら「家に飾るなら、こんなふうに取り入れたいな」と思えるほどリアルで心地よく、アートをもっと身近に感じられました。
展示空間に足を運ぶというより、「暮らしの中でアートと出会う」──その意味が自然と腑に落ちた体験でした。
“影と踊る”という感覚──ホワイトキューブでの映像詩
邸宅展示のあとは、美術館のさらに奥へ。
奥へ進むと、白く静かな空間「ホワイトキューブ」が現れます。
ここでは、蜷川実花さんとEiMによる新作映像と写真が展示されていて、沖縄の自然が持つ“強さ”と“儚さ”が鮮やかに浮かび上がります。
夜に咲き、朝には散る“サガリバナ”との出会いから生まれた本展のタイトル「光の中で影と踊る」。その意味が、この空間に立つことで少しずつ体に染み込んでいくような感覚がありました。
自然光が差し込む角度によって、まるで海の中にいるように見える展示室もあり、時の流れや静けさとともに“いのちのかけら”を見つめるような時間が流れていました。
海と空に包まれて、心がゆるむ場所
最後に立ち寄ったのは、常設展示室「美宿館」。太平洋を一望できるオーシャンビューのテラスで、ソファに腰かけてひと息つける心地よい空間です。
ここ南城市は、琉球王国最高の聖地「斎場御嶽」や神の島・久高島を有する“太陽の昇る聖地”。テラスから広がる景色を前にすると、そんな土地のパワーを肌で感じられるような気がします。海の彼方には、理想郷ニライカナイがある──そんな伝承に想いを馳せながら、静かに流れる時間に身をゆだねました。
美術館内に併設されている「伴山カフェ」は、赤いコンテナハウスを組み合わせた個性的な外観。マウンテンビューとオーシャンビューが選べる席で、展示の余韻にひたりながら、心地よいブレイクタイムを楽しめます。店内にも20〜30点ほどのアート作品が展示されていて、ここでも“暮らしとアートの交差点”を感じることができました。
南城美術館は、美術館であることを忘れるほど自然で、気取らず、心地よい場所でした。
ママ一人の時間でも、日常の延長線上でアートと出会い、なにかを感じることができる場所。それは“作品を見る”というより、“暮らしの中にある美に気づく”というような、やさしく深い体験でした。
おでかけ先に美術館、ちょっとハードルが高そう…と思っているママにこそ、ぜひ訪れてほしい場所です。感性を自由にゆだねて、心をほどく時間を過ごしてみてくださいね。
INFORMATION
店名:
南城美術館
住所:
〒901-1502 沖縄県南城市知念安座真865
電話番号:
098-975-7616
営業時間:
10:00〜20:00
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